「ノリコ先生、魚市場さんから雇用調整助成金の件で電話です」
「SAWAちゃん、ありがとう。はい、お電話代わりました」
「所長、居酒屋ポチさんから電話です。休業の件でご相談だそうです」
「キミちゃん、ありがとう。はい、お電話代わりました」
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、お客様や新規の取引先から休業などについての問い合わせが殺到している。
「ノリちゃん、あさひ人材さんに派遣の協定書を送っておいて」
4月1日から改正労働者派遣法の施行でこちらも忙しい。
「そうそう、ノリちゃん、ノリコ君の送別会の会場は予約できているのか?」
「所長、ばっちりですよ。おいしい店を予約しておきました」
このバタバタする最中、私は1年間の休職をすることになった。休職と言っても、東京の大手事務所で再度、自分を鍛え直してくるのだ。
雇用調整助成金
「ノリコ先生、うちも明日から従業員の一部を休業させるんですが、助成金はもらえますかね?」
「ええ、雇用調整助成金の受給は可能だと思います。新型コロナウイルスに影響で売り上げなどが前年同期比で10%以上減少してれば受給できますよ。社長のところは、飲食店に卸しをしているので影響は大きいでしょうね」
「そうなんですよ。宴会なんかがほぼなくなって、飲食店からの注文が激減で、10%どころか売り上げは1/3以下ですよ。このままじゃ、持ちませんよ」
「基本的な事項を確認しておきましょう。御社は従業員数が25名、全員が雇用保険に加入していますよね」
「そのとおりです。ただ、5名は1月に入社したばかりですが」
「従来は、中小企業においては、雇用保険の被保険者が4名以上増加している場合は、支給対象となりませんでした。また、被保険者期間が同一事業主で継続して6か月以上必要でしたが、今回の特例措置で被保険者が4名以上増加しても、被保険者期間が6か月以上でなくともよくなりました。従って、御社では、基本的に全社員が対象となります」
「全員を同日に休ませるわけにはいかないんで、交代で休ませることを考えているんですが」
「そうですね、それが現実的ですね。雇用調整助成金は本来、休業をスタートさせる前に計画届を労働局に提出しなければなりませんが、今回の特例措置で、5月31日までは事後の提出が認められます。ただし、原則として休業させるに先立って、どのような内容で休業させるかを労使協定で定める必要があります。今回は、特例で労使協定も事後の締結でもOKです。明日からの休業は大丈夫ですよ」
「そうですか。では、ノリコ先生、至急お願いできますでしょうか?」
「承知しました。では、御社でご準備いただきたい書類等がありますので、すぐに一覧表を作成してメールさせていただきます。また、支給要件等の詳細についても併せて資料をお送りいたします。給与計算を私どもがやらせていただいていますし、就業規則や36協定等も万全ですから、比較的スムーズに進んでいくと思いますよ」
「所長、魚市場さんが休業を早くスタートさせたいとの事です。雇用調整助成金の申請を引き受けましたが、私は、今月いっぱいで東京へ行ってしまいます。誰に引継ぎをしたらよいでしょうか?」
「そうだね、SAWAちゃんに引継ぎをしてもらおうか。それから、他の顧客の引継ぎはもうすんでいるのかな?」
「ええ、ほぼ終わっています。ただ、新型コロナの件で、新たな依頼が増えていますので、よろしくお願いします」
「わかった。安心してくれたまえ」
最後の勤務日
今日は、とりあえず最後?の勤務日。東京での新たな生活に対する期待感と不安がないまぜになって何となく落ち着かないが、皆が盛大に送別会を開いてくれる。
「うえーん、ノリコ先生、元気で頑張ってくださいね」
「SAWAちゃん、ありがとう。1年なんてあっという間よ。戻ってきたときは、SAWAちゃんも社労士になってるわよね」
「はい、頑張ります」
「さあ、皆でノリコ君の前途を祝おうじゃないか」
「皆さん、ありがとうございます。1年後にはもっとハンサムウーマンになって帰ってまいります。皆さんもお元気で」