近年、地方移住への関心は高まり、東京の「ふるさと回帰支援センター」への問合せ・来訪者数は、2008年度の2,901件から2017年度の34,891件まで約12倍に増えています。
都市部でキャリアを積んだUターン希望者を採用できれば、地方の中小企業にとっても大きな戦力になりえますが、国立社会保障・人口問題研究所の第8回人口移動調査によれば、Uターン移住者の割合は第6回(2006年)から第8回(2016年)まで、全年代でほぼ同水準で推移しており、関心が高まる一方で実際の移住者数に大きな変化はありません。
そこで今回は、株式会社電通の地方創生室が実施した「全国Uターン移住実態調査」を参考に、Uターン転職を促進するために企業はどんなアクションが取れるのでしょうかをまとめてみたいと思います。
Uターン者は何をきっかけに転職した?
「全国Uターン移住実態調査」の調査結果によると、Uターン移住者の平均年齢は37歳で、独身者が多いようです。平均37歳といっても、20~24歳から45~49歳までの年齢区分で、どの区分も13~14%とほぼまんべんなく分布しており(ただし、40~44歳だけ10%台に減少)、Uターンの理由としてイメージされるような、「シニアの定年後の選択肢」や「子育てのための移住」だけが理由ではないことがわかります。
では、どんなきっかけでUターン移住を決めたかというと、その理由は「首都圏はずっと住める場所ではない」「せわしない首都圏での生活や人間関係がストレス」といった通勤や都市部の生活でのストレスや、「両親の近くに住みたい」「両親が高齢になって/病気になって」といった家族に関するものが上位を占めています。
引用元: 「全国Uターン移住実態調査」(電通2018.2.21)
これを踏まえると、地方の中小企業で働くことの魅力は「都市部にはない地元ならではの環境」や、「家族との時間を大切にできるライフスタイル」にありそうです。社員のライフスタイルや、満員の通勤電車から解放された職住近接の通勤環境など、地元では「当たり前」と思っていることほど、Uターン転職希望者にとっては魅力となることも多いので、自社の環境の「当たり前」を見直してみてはいかがでしょうか。
Uターンに関する不安に応えるのも響くキーワードに
Uターン転職希望者に響くキーワードを考えるときに欠かせないもう1つの視点が、「転職希望者の不安に応える」というものです。前述の調査からUターン移住者はどんな不安をもっていたのかも確認してみましょう。
引用元:廣川 淳二 「Uターン移住者調査結果から見えてきたヒント」(電通報 2018.4.25)
これをみると、「仕事の種類・幅が少ない」「自分が求める職種の仕事がない」「自分のスキルを活かせる仕事がない」という仕事に対する不安や、「移住後の生活費/やりくり」「自分が求める給与水準の仕事がない」「移住にかかる諸費用/金銭的負担」とお金に関する不安が上位を占めています。仕事とお金を不安に思う背景には、「情報量が少ない」「信頼できる情報が何かわからない」「情報の調べ方がわからない」といった情報不足も一因にあります。
都市部の企業に比べると地方の中小企業は、ホームページでも仕事内容などの情報発信が少ないことも多いため、ネットで検索することに慣れた人にとっては情報不足に不安を感じてしまいがちです。一方で、地方の中小企業でもホームページやFacebookなどで積極的に情報発信している企業は、Uターン希望者の採用にも成功している傾向があります。
このことからも、Uターンを検討する多くの人が地元での「仕事内容」や「金銭面」に不安を抱いていることを念頭に、それを解消できるような情報を積極的に発信するのは、Uターン転職促進にとても重要といえます。社員のインタビューなどを通じ、「地元ならではの働き方」や「地元だからこそ感じられるやりがい」など、都市部で働くのでは得られない、地元企業で働くからこそ得られるメリットを訴えていきましょう。
Uターン入社者の体験談は有力なコンテンツ!
以上を踏まえると、Uターン入社者の体験談は今Uターンを検討している人にとってはとても参考となるコンテンツです。Uターン採用を積極的に行いたいのであれば、Uターン入社者にインタビューを行い、HPの採用ページや採用パンフレットで積極的にその情報を発信していきましょう。
インタビューの構成は、Uターン転職を考えている人の「他の人はどうだったのだろう?」「実際はどうなんだろう?」という疑問と不安に応えられるように、以下の5項目を盛り込むのがおすすめです。
- Uターンをしようと思ったきっかけ
- Uターンをする際に不安だったこと
- Uターンをする前の仕事と今の仕事内容
- Uターンをしてライフスタイルはどう変わったか
- Uターンをして仕事や生活への満足度はどう変わったか
特にこのインタビューのなかで、多くの人が不安に感じる「仕事内容が都市部で働いていた頃とどう違うか」「年収が下がるけれど、生活への影響は本当のところどうなのか?」という点について正直な実体験や思いが語られていると、より転職者には響くコンテンツになると思います。
いろいろ不安や懸念があるとはいえ、「全国Uターン移住実態調査」によれば、Uターン移住者の「生活満足度」はすべての年代で向上しています。
私がこれまでにUターン移住者に話を聞いてきたなかでも、「仕事がない」「年収が下がる」などの不安のトップに上がるような項目は、「Uターン転職したら、心配したようなことは起こらなかった」という人ばかりでした。そうした社内にもある実体験を企業がより積極的に発信すれば、今都市部でUターンをしようか思い悩む人の不安も解消でき、生活満足度が上がるUターンへと一歩を踏み出せる人が増えていくのではないでしょうか。