売り手市場と言われる中途採用市場でも、もっとも人手不足感の高いのがIT/通信エンジニアです。ITエンジニアを採用するとなると、「募集してもなかなか、応募がない」「応募があってもいい人が来ない」という募集面の課題が尽きないだけでなく、面接という限られた時間のなかで、エンジニアの能力やスキルを見極めるのもまた、なかなか容易ではありません。
そこで今回は、よい人材を見極めるためにITエンジニアの中途採用における適切な選考方法について考えてみましょう。
「求める人材像」を明確にすることから選考は始まる
ITエンジニアの選考は、「自社にとって本当に必要な、採用すべき人材はどんな人なのか?」を定義することから始まります。イメージで思い描く「優秀なエンジニア」と、「自社で活躍できるエンジニア」、さらには「今、現場が必要としているエンジニア」像がそれぞれ異なることもありますので、ここは曖昧にせずに人材要件をしっかり定義していきましょう。
人材要件は、現場や経営層への詳細なヒアリングに加え、社内で活躍しているエンジニア(ハイパフォーマー)の分析や、早期退職者(ローパーフォーマー)分析などを反映すると、より明確にすることができます。たとえば、求める人材の条件として「課題解決力」や「提案力」をあげる求人をよく見かけます。これはエンジニアには必須の能力とも言われますし、本当に課題解決力や提案力が業務に必要なケースも多いでしょう。
しかし中には、業務分析やハイパフォーマー・ローパフォーマー分析をしてみると、「仕事はクライアントのニーズを的確に反映することが大事なので、業務上で課題解決力や提案力はあまり必要とされない」「そのため、提案することが好きな人は業務に合わずに早期に辞めていた」なんてこともあります。
このように「優秀な人材はこういう人」というイメージや、「今、現場にいないタイプの人材を補いたい」という理想論から、「課題解決力のある人」と人材要件を定義をしてしまうと、自社のための適切な採用・選考ができなくなってしまう可能性があります。
これは、「課題解決力」や「提案力」に限らず、「コミュニケーション能力」や「マネジメント能力」「リーダーシップ」「協調性」などの能力や、「人柄」「企業へのロイヤリティ」「向上心」「向学心」なども同じことがいえます。面接で重要視される条件は、業務内容やポジションによっては、「あればいいけど、絶対に必要というわけではない」ということも意外に多いのです。
さらに特定のスキルや経験も、「現時点で、身につけていることが必要」なのか、それとも「ある程度ベースがあれば、あとは新しい知識や技術を学んでいく積極的な姿勢があればいい」のかで、求める人材像も採用難易度も変わってきます。
- 自社が今、抱えているのはどんな問題なのか。
- それを解決するのは、どのようなスキルや能力、ポテンシャルを持った人材なのか。
- 自社で活躍できるのは、どんな人なのか。
人材要件を整理するためにも、経営層だけでなく、現場のエンジニアも巻き込んで上記のような視点から現状を確認してみてください。そしてそこから見えてきた人材要件を、どうしても欠かせない「MUST」と、あれば望ましい「WANT」にわけていけば、自社にとって「採用すべき人材像」が明確になります。その判断軸ができれば、適切な選考ができるようになるでしょう。
自社のエンジニアに協力してもらう
ただでさえ忙しい自社のエンジニアを、採用業務に巻き込むのは難しい状況もあるかもしれませんが、エンジニアに採用に協力してもらうと3つの大きなメリットが得られます。
まず1つめは、「求める人材像が、よりはっきりすること」です。現場から求人ニーズが発生した時点で、ある程度「こんな人が欲しい」という人材要件は定義されますが、それを更に詳しくヒアリングし、現状の課題を踏まえた上で「MUST」の条件と、「WANT」の条件の整理を確認してもらえば、現場で本当に求める人材像がよりはっきりします。
(このプロセスは、エンジニアでも、現場の課長・マネージャー、プロジェクトリーダークラスの協力が必要となります。)
そして2つめは、「エンジニアの視点で、情報発信できること」です。自社のエンジニアは、ターゲットであるエンジニアの気持ちを知っています。求人情報のどこをチェックしているのか、そこにどんな情報があれば応募してみたいと思うのか、エンジニアならではの視点で確認してもらうと、発信する情報も「エンジニアの心に刺さる内容」へと変わっていくでしょう。
(これは若手クラスや、最近まさに転職活動をしていた中途入社者に協力してもらうのもいいでしょう。)
最後は、「エンジニア同士のコミュニケーションができること」です。自社のエンジニアにも面接に入ってもらう、あるいはもっとカジュアルに「面談」してもらうなど、「応募者と社員の、エンジニア同士のコミュニケーション」を実現させるメリットは多くあります。
たとえばエンジニア同士のコミュニケーションによって、人事採用担当では引き出せなかった一面が出てくることもありますし、スキル面をより正確に把握できたり、また人事採用担当の印象とは異なった印象を持ったりすることもあるでしょう。
その結果、応募者のエンジニアとしてのスキルや能力をより複眼的に確認でき、「自己PRは得意ではないが、確かな技術を持っている、本当は採用すべき人」を見落としてしまうリスクや、「コミュニケーション力は高いが、技術はそれほどでもない」実は採用すべきでない人を採用してしまうリスクを減らすことができます。また、応募者が社員のエンジニアと話し、「こういうエンジニアになりたい」「この人と一緒に働きたい」と思ってくれたら、多くの求人のなかで自社を選んでもらう大きな決め手にもなりえるでしょう。
採用業務に加われば業務負担は確かに増えますが、「新しいメンバーの採用プロセスに関わる」ことは管理職候補の人材育成の面でもプラスになります。さらに、選考プロセスからコミュニケーションをとることで、入社後も職場で何かと気にかけたり、フォローしたりするようになり、中途入社者が現場に馴染むのをサポートする効果も期待できますので、エンジニアの協力依頼を前向きに検討してみるのはいかがでしょうか。