新卒採用企画力で他社との差別化、存在感をアピール
採用において大手企業に埋もれないための施策が求められる中小企業。自社にマッチした採用方法を見つけるためには、まずは試行錯誤していくしか方法はない。同社も様々な試行錯誤の末、独自の視点、アイデアから学生の支持を集め、採用を成功させている。
採用企画力の背景や原動力になるものについてお話を伺った。
前田バルブ工業株式会社
「暮らしと水をむすぶ・・・。」のキャッチフレーズのもと、優れた多品種生産技術、先進の製品開発、万全の品質管理により、水道用バルブ及び継手などの給水装置関連製品を製造し、水道事業の発展に貢献
専務取締役 前田 崇統 様
2003年に大学卒業後、 配電盤などの設備関係を取り扱う電機メーカーに就職後、新規事業部で営業を経験後、同社に転職。現在は、同社の事業全般を統括しつつ、人事にも携わる。
人事の立場として学生との適度な距離感とは何か模索
ー採用は正解を見つけるのが難しい世界ですよね。御社にとって、採用活動の要とは何でしょうか?
学生との距離感の取り方と採用時期の見極めではないでしょうか? 学生優位の市場感がある限りは、この2つを抑えておく必要があると思います。
学生との距離を縮めるために、私自身が就職活動を経験した時に、人事担当の方の対応で記憶に残っていることを参考にしています。例えば、内定出し後の学生への個別対応。内定者と1対1でお話し、会社について深く理解してもらうとともに、その学生の芯に迫ることを狙いに行います。
ただ、ここで注意しなければならないのは、こちらからの一方的なアプローチだけでは、かえって学生が一歩引いてしまって内定辞退を招きかねないということです。
弊社でも、2~3年前に新卒採用を行っていた時、男女2名に内定を出すことができたのですが、結果として内定辞退になってしまいました。その原因の1つとして、こちらからの直接的な対面でのアプローチが、一方的になりすぎてしまったことがあるかと思います。
今のご時世であれば、学生は複数内定を持っているのが当たり前ですので、人事担当から学生への過度な情熱は、どこか不自然だと捉えられ、何か裏があるのではないかという危惧を与えてしまうのです。
採用したいと思う方には、こちらの熱い気持ちが先行し、猛アプローチをしてしまいがちなのですが、駆け引きのように、学生からの反応を伺うといったような余裕を見せることも時には必要ではないでしょうか。
後半期であれ、市場を掘り起こせば、いい学生に出会える
ー確かに、就職活動と恋愛は似ているというお話も然り、余裕のある姿を見せることで学生を安心させることにもつながるかもしれませんね。それでは、2つ目に挙げていらっしゃった採用時期の見極めというのは、御社を例に挙げるといつ頃がベストだと考えていますか?
新卒採用において採用に動き出す時期というのは、じっくりと吟味しなければならない部分だと思います。
特に中小企業はどうしても大手企業の後手に回ってしまいますので、早期学生を狙うよりもリスタート学生を狙っていく方が良い結果につながるといったケースも考えられます。先ほど、例に挙げた内定辞退の原因は、4月という早期に内定を出してしまったことにもあると考えています。
知名度の高くない企業は、優秀な学生と早期に出会い、内定を出したとしても、大手企業の内定出し後に見切られてしまうことも少なくありません。そうなると、巻き返しが必要となるわけで、むしろ大手企業の選考後が、採用のチャンスとも言えるのではないでしょうか。
就活活動後半期の学生は、質があまりよくないのでは? と疑問視する声もありますが、一様にそうとも限りません。どんな時期であれ、市場を掘り起こすことができれば、いい学生さんには出会える可能性はある。
これは私自身の人事経験から率直に言えることです。採用活動は、世間一般的な先入観に囚われずに臨むことが大切だと思います。
大学に対しても学生に対するアピールポイントをしっかりと伝える
ー就活後半期の企業動き方には難しさもあります。後半期における活動で、特に意識されていたことは何でしょうか?
大学とのつながりは意識していますね。後半期になると、 東海圏内のターゲット校を絞ってこまめに通うようにしています。大学のキャリアセンターなどに、採用に課題があるといった旨を連絡すると、相談にのってくれる方が多いので助かっています。
特に私たち水道業界はインフラですので、業種的に安定しているというイメージは抜群にあるので、大学からは評判がいいんです。その点が弊社の一番の強みだと思っています。
また、1か月に2~3回出張ベースで県外の取引先を回るといった形がメインですので転勤がないことも、安定感をPRできる素材としては十分です。そういった部分が相乗的に働きやすい環境を作り出し、定着率の高さにもつながっています。
大学に対しても学生に対するアピールポイントをしっかりと直接伝えていくことが大切だと思います。先生から学生に対しても紹介しやすくなりますからね。そういった面で、大学との関係作りは大切です。
結果的に自然と 学生の掘り起こしにも
ー大学での広報といえば、前田さまは様々な大学で講演をされていると思うのですが、それは企業PRを狙いとして行っているのでしょうか?
いいえ。講演は、採用目的として、意図的に行っているわけではありません。もともとは、自分が大勢の前に出て話すことに挑戦してみたかったという気持ちがきっかけなんです。たまたま私の出身大学の方から、話す機会を与えていただいて、それから講演のオファーが来るようになりました。
もちろん、講演をする際、前置きとして弊社の企業概要と私自身のプロフィールを説明しますが、それはあくまでも私の立ち位置を理解してもらいたいからです。講演のテーマも、愛知ブランドの代表として製造業を語ったり、就職活動のノウハウに関するものであったり広報には直接つながらないことが多いです。
最近では、通り一辺倒なものではなく、自分なりのオリジナルのアイデアを盛り込んだ内容でいつも行っていますよ。ただ、結果的に自然と弊社に関心をもってくれる学生の掘り起こしにもつながっているというのは1つ言えるかもしれません。
他にも発信という面でいえば、SNSでも大学での講演や会社としての活動などの報告ツールとして活用しています。これも意図的なものではないにせよ、 社会貢献をしている会社というイメージづくりにも役立ちますね。
まずは自分のやりたいことに挑戦してみては
ー採用方法はもちろんのこと、新製品開発などに関しても積極的で独自性にあふれていますよね。そういった企画力や新しいアイデアはどこから生まれるのでしょうか?
前職での経験が役に立っていると思います。前職では、新規事業部に属していましたので、ルート営業というより、新規開拓の方がメインでした。最前線のマーケティングを行い、期待できそうな商材を見つけては、次の核となるような部門を次々と立ち上げていくような仕事です。
ですので、 新たなお客様への飛び込みも もちろん、会社の開発部門の方と実現可能かどうかの相談もしないといけませんし、物事を広く見渡す視点が求められました。だからこそ、自力で様々な範囲の勉強をしましたね。設備関係の勉強はもちろん、商品説明をするために、自分でパンフレットも作ったりしていました。新しいことに挑戦する度に新しい世界が見えてくるのは、仕事のやりがいの1つでした。
現在は、前職と分野は異なるにせよ、現状形にないものを、実際に形にしていくという面では 、行動パターンというのは似ていると思います
採用においても製品づくりに関しても、頭の中にあるイメージを表現する方法を模索して、わからないことは詳しい人に聞き込みをすることで新しい企画が生まれます。
新しいアイデアを出すことに苦戦して、他社との差別化ができないという課題がある場合、まずは自分のやりたいことに挑戦することから始めるのはいかがでしょうか。そこから社風は自然と伝わりますし、結果的に自社ならではのアピールすることにもつながるのではないでしょうか。
編集後記
知名度の高くないジモト企業は、時代に即した採用方法を先駆け的に模索する必要性があり、他社との差別化を目指す上では企画力を試されているのかもしれない。そういった企画力は、採用に限らず新事業立ち上げや製品開発などにも共通する部分がある。だからこそ、知識の積み上げが大切になるのだと改めて感じることができた。