第4回 メンターとしてのコミュニケーションの注意点
こんにちは。採用と人材育成のコンサルティングを行う株式会社アールナインの小松です。
メンターがうまく機能するかどうかは、メンターのコミュニケーション能力が大きく影響します。そのため最近では、メンター向けのコミュニケーション研修もあちこちで見かけるようになりました。しかしなかには、「開催場所が東京や名古屋ばかりで、なかなか近くで開催されない」「時間がなくて参加できない」という方も多いのではないでしょうか。
そこで第4回では、そのような研修になかなかいく時間がない方のために、人事が中途入社者のメンターになる際のコミュニケーションの注意点を、ポイントを絞ってご紹介します。
①話を聞くときには相手を否定せず「傾聴」のスタンスで
メンター制度の主役はメンティです。ですからメンティである中途入社者が、気になることや今抱えている不安や疑問、トラブルなどを話しやすいようにするのが極めて重要です。
そのためにも、メンターとして接する際には「相手の話を否定しない」「相手のほうをきちんと見る(アイコンタクト)」「うなずき、共感を伝えながら聴く」など基本的な「傾聴」のスタンスを忘れないようにしましょう。
特に「中途入社者」と「人事」という関係では、
- 「この会社のこういうところに違和感があるんだけど、相手が人事じゃいいにくいな…」
- 「前の会社はこうだったのにな・・・」
- 「これ入社前に聞いていたのとだいぶ違うけれど・・・」
といった、会社に対するネガティブな意見や不満が言いにくくなりがちです。しかし、このような不満や不安こそが早期離職の原因であり、できれば早めに解消したいものでもあります。だからこそ、「どんなことでも話して大丈夫」と相手が安心できるように、傾聴がより重要となるのです。
ただ傾聴のスキルには、「明確化」「言い換え」「要約」「質問」などがあり、このうち「明確化」や「言い変え」「要約」などはテクニックが必要な部分でもあります。言い方を間違えると「そういうことが言いたいわけじゃないのに、この人はわかってくれない・・・」と逆効果になるリスクもありますので、不安な場合には、傾聴の基本中の基本である
- 相手の顔をみて真剣に話を聴く。
- 適度にうなずきなから聴く。
- 相手の意見を否定したり、途中で話を遮ったりしない。
の3点だけでも徹底しましょう。これだけでも、相手は「真剣に聴いてくれている」という印象と安心感を持ちやすくなります。
②お説教や押し付けではなく、うまく「導く」ように
メンターとして接するなかで、その話題のなかには社内の制度や社内の行事、社内での生活ルールに対する不安や戸惑いもあるかもしれません。また、本音をいってしまえば
- 「そんなこと気にしたって仕方ないのに・・・」
- 「何をそんな甘いことを・・・」
- 「それはわがままなんじゃないの?」
と、人事として、または先輩社員としてツッコミたくなるようなこともあるでしょう。しかし、メンターは、気づきを与え、やる気を引き出す存在であり、自分の考えを押し付けたりお説教をしたりする存在ではありません。
こんなときには、中途入社者の気持ちに理解を示しながら、本人が納得して現状を客観的に捉えたり、またはルールや制度を理解したりできるように、今までの経緯や周囲の状況、社内での成功事例などを丁寧に説明していきましょう。人事にこのような不安や不満を言ってくれるのは、今までのコミュニケーションで関係がしっかり築けているからこそともいえます。その点はぜひ自信をもっていきましょう。
③「定期的な場」と「期限」を設ける
同じ職場であれば、職場での様子を見ながら声をかけることもできますが、フロアや棟が異なり職場が離れている場合には、なかなかそうはいきません。
そこで人事がメンターとなる場合には、月に1~数回と回数を決めて定期的な面談の場を設けるなど、コミュニケーションのルールを決めておくとよいでしょう。面談の場は、中途入社者が周囲を気にすることなく落ち着いて話ができるような場所であれば、社内の会議室でも社外へ一緒に飲みに行ったり、昼食を取ったりしながらでもかまいません。
そしてその定期的なフォローを行うメンター制は、「期限」を設けることも必要です。メンター制の期限は3ヶ月から数年と企業によって様々ですので、状況に応じて決めておきましょう。中途入社者が対象なので、人によってはその期限までフォローしてもらわなくても十分職場に慣れてメンターを必要としなくなることもあります。また人事とはいえ、中途入社者とお互いに相性が合わないということもあるかもしれません。
そんな場合には、フォロー期間を短くする、現場の先輩社員に代わりにフォローをお願いするなど臨機応変に対応していきましょう。
④上司への配慮と報告を忘れずに
人事がメンターとして、中途入社者をフォローする場合、配属先の上司のなかには「自分のマネジメントを否定しているのではないか」とか、中途入社者からのフィードバックを通じて「自分のマネジメントを監視されているのではないか」と感じてしまう人もいるかもしれません。
人事がメンターを行うことで中途入社者の上司がそのように感じ、上司と中途入社者の関係がギクシャクしてしまうようでは本末転倒です。そこで、そうならないためにも直属の上司との連携をしっかりしていきましょう。
連携のためには、まずは入社前に、人事がメンターとして中途入社者が入社後の社内の生活に慣れるよう一定期間、面談などをしてフォローすることを説明し、理解を得ておきます。そして入社後は、フォロー面談の後に様子を報告し、そのなかで現場の上司が中途入社者をマネジメントしやすくなるような情報を提供していきましょう。情報を共有していけば、「自分の知らない所で何かが行われている」感がなくなりますので、好意的に受け入れてもらいやすくなります。
人事が中途入社者のメンターになる場合には、「早期戦力化と離職防止」という目的を現場の上司と共有し、それぞれ違う立場から中途入社者をフォローできるように協力と理解を得ることが欠かせません。
人事がメンターとなる場合は、メンティとなる中途入社者だけでなく、その上司も含めてコミュニケーションをとっていくことが、成功のポイントとなるのです。