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社労士ノリコの事件簿⑨~採用内定の取り消しを行う要件とは~

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「ノリコさん、また、会えませんか?」

「エッ?」

「イヤー、その、また食事に誘っても良いですか?」

「ハァ、時間があれば。」

「良かった、じゃあ今度メールします。」

今日は、顧問先の社長の甥御さんと食事だった。私、何でこの人と食事をすることになったんだろう?美味しい食事とつまらない会話のアンバランスで、自分の状況が分からなくなっている。そうだ、所長が担当する顧問先に私が代わりに行ったときに、偶然、顧問先の社長の甥御さんが私を見かけ、デートに誘いたいって所長に言われたんだっけ。

私は、ノリコ。社労士として顧問先の人事労務問題のアドバイスをしている。人は私のことをハンサムウーマンと呼ぶ。まぁ、分かる人には分かるのよねー。

そんな私を捕まえて、「ノリコ君、今度、美味いもん喰わせてやるから、期待してくれ。」なんて所長の甘言に乗せられた私がバカだったわ。のこのこ指定のレストランに出向いたら、今回の出来事。もう勘弁してあげないわよ、所長!

「ノリコ先生!こんなところでどうしたんですか?お仕事ですか?」

声をかけてきたのは、顧問先の吉田社長。

「アラッ、吉田社長、いつもお世話になっております。吉田社長こそ、今日はどうされたんですか?」

「今日は、取引先の社長さんと親睦を兼ねて一杯やっていましてね。これから、錦3丁目に繰り出そうかと相談をしていたところです。」

「そうですか、貴社の益々のご発展を願っております。でも、社長、飲み過ぎにはお気を付けください、体調を崩されては本も子もありませんので。」

「イヤーッ、参ったな。そうそう、総務部長の伊藤君が先生に相談したいことがあるそうですよ。内定を出した新卒の採用の件なんですがね。明日、伊藤にお電話いただけませんか?」

「承知しました。明朝一番で、伊藤部長にお電話差し上げることといたします。では、社長、お気をつけて。私はこれで失礼します。」

 

内定を取り消したい

「ヤア、ノリコ先生、いつもお世話になります。昨日は社長が先生に電話をくださるよう無理を言いました。」

「いえいえ、こちらこそいつも大変お世話になっております。吉田社長から伺いましたが、新卒の内定者のことで何かご相談があるとか?」

「そうなんです。高卒を今年は5名採用する予定でしたが、大卒で1名当社に入社を希望する子がいましてね。大変積極的で、学業成績もまあまあなので、早々に内定を出したんです。」

「そうでしたか。それで何か問題でも?」

「エエ、実は、内定を取り消したいんです。」

「それはまたどうしてですか?」

「先日、内定承諾書を会社に持ってきたんです。その時に、現場をしばらく見学させたんですが、当社の製品の製造工程を勝手に録画して、YouTubeにアップしたんですよ。」

「そうなんですか?」

「エエ、偶然、社員の子供がYouTubeで発見したらしいんですが。それが、本人は面白おかしくしようと勝手な解説を付けてアップしたんです。現場からは、自分たちの仕事をばかにしているとカンカンに怒っているとの声と、企業秘密に属する工程も録画されているので大問題だとの声が出ているんです。」

「それは問題ですね。その学生さんは、どの様に言っているのですか?」

「済みませんと平謝りです。すぐに動画を削除したようですが。」

「伊藤部長、御社としてはどのようにしたいとお考えですか?」

「社長も内定取消しは仕方ないだろうと言っています。」

「そうですね、本人に悪気はなかったとしても、従業員の皆さんが一所懸命に働いている姿をからかわれたり、企業秘密が漏えいしてしまっては内定取消しも仕方がないでしょうね。」

「実際に、どの様に取り消しを通知したら良いでしょうか?」

「内定通知書には、内定取消事由が記載されていましたよね。」

「はい、以前、先生にご指導いただいたように記載しています。」

「では、その手順と内定の取消について少しご説明しましょう。」

 

内定とは

内定とは、法的には「始期条件付きの解約権を留保した雇用契約」が締結されているとされます。「解約権を留保した」とは、労働契約を解除するのに相当な一定の要件を満たした場合には、会社が労働契約を解除することができるということです。

内定は、入社前なので法的な効力はなく、単なる慣習であると考える経営者が少なからずいますが、前記のように法的に雇用契約が成立しているのです。「雇用契約を解除する」というのは、会社が一方的に契約を解除する場合、別の言葉でいえば、「解雇」になります。つまり、内定を取消すということは、「解雇」と同様に考える必要があります。

内定取消が認められた裁判例として、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」というものがあります。

つまり通常解雇と同様に、「客観的に合理的な理由」が存在し、「社会通念上相当」でなければ、会社側の権利の濫用として無効とされるのです。多くの場合、内定通知書には、内定取消事由が列記されています。

  1. 卒業不能
  2. 健康状態の悪化で就業に耐えられない
  3. 罪を犯す

などです。

これらに該当する場合は、内定を取消すことが「客観的に合理的な理由」が存在し、「社会通念上相当」であるとして認められるケースが多いでしょう。内定の取消は学生にとって一大事です。突然、内定を取消されるような不意打ちは公平の観点から認められないことが多いと思われます。従って、内定取消は、必ず内定通知書に、取消事由を記載しておきましょう。

今回のケースでは、まず第1に、企業秘密の漏えいが問題となります。たとえ軽い気持であったにせよ、会社にとっては重大な損害が発生すると考えられます。このような場合には、既に就業している従業員であっても就業規則等に企業秘密の漏えいは懲戒解雇事由として定められていることが殆んどです。そう考えると、企業秘密の漏えいは、内定取消事由として、「客観的に合理的な理由」に該当し、内定取消は「社会通念上相当」な処分と認められると思います。また、面白おかしく勝手な解説を付けたことは、他の従業員や会社の品位を貶める行為に該当することもあります。

従って、今回のケースは、内定を取消しても会社側の解雇権濫用には当たらないのではないかと思われます。実際に内定を取消す場合には、「内定取消通知書」を本人宛に郵送することになります。内定取消の事実、理由を記載し、本人に確実に届く方法、配達証明付きの郵便で送ると良いでしょう。企業秘密の漏えいにより、実際に会社に損害が発生した場合には、不法行為に対する損害賠償請求もできることがあります。その旨も記載しておくと良いでしょう。

 

学生も反省

「ノリコ先生、先日は大変ありがとうございました。学生も大変反省して、内定取消は自分の落ち度だと認め、問題なく処理ができました。」

「そうですか、よかったですね。伊藤部長、今後は、採用面接の時に、SNSへの会社の写真などのアップは禁止する旨の説明をキチンとしておかれると良いと思いますよ。」

「そうですね、今後は書面でそう言った事項を禁止する旨、学生に伝えるようにします。そうそう、社長がノリコ先生にお詫びをしなければと言っていました.よ。」

「エッ?何故でしょうか?」

「イヤーッ、うちの社長の甥っ子なんですが、誰彼ともなく、美人を見るとデートに誘う癖がありまして。ノリコ先生にもご迷惑をおかけしたと申しております。」

「いえいえ、先日はご馳走になりこちらこそありがとうございました。でも、甥御さんは、独身なんですよね?」

「いえいえ、既婚者です。質が悪くて本当にすみません。」

「そうでしたか、今後は、私も注意いたします。」

もう、所長ったら、危うく不倫だなんて言われるところだったわ。とっちめてやらなくちゃ。

「のりちゃん、所長は?」

「あら、ノリコ先生お帰りなさい。所長なら、明日の出張の準備があるって、もう帰っちゃいましたよ。」

事務主任ののりちゃんは、ウチの司令塔。てきぱきと仕事をこなし、事務所のことなら何でも知っている。

「そう言えば、所長がノリコ先生にこれを渡してほしいって。」

「何だろう?ンンンンー?なにこれ?」

「どうしたんですか?」

「これ見てよ!こないだ無理やりデートさせられた時のレストランの請求書!どうして私が払わなきゃならないのよ!」

「アラッ、でも日付が違うわ。」

「エッ?」

「ほら、ノリコ先生が出かけた翌日の日付ですよ。分かった。所長は自分がデートした分を私が経費として認めないから、ノリコ先生の分として経費処理しようとたくらんだんですよ。困った人ですねー。」

ライター紹介

竹田 紀子

http://www.asahi-support.jp/

社会保険労務士法人 あさひ合同事務所
特定社会保険労務士
大手ホテル系レストランで、人事・労務に従事。
社会保険労務士資格取得後は、社会保険労務士事務所に勤務し経験を積む。
その後、愛知労働局 総合労働相談コーナーにて労働相談員として労働相談を受け、企業側、労働者側双方からの数多くの事例に労務管理のプロとして対応してきた。
現在の事務所に入所後は、顧問先の様々な問題に対するアドバイスを精力的に行っている。

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